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2008/06/28(土)

これが私の桃太郎。後編

私たちが知っている有名な桃太郎の筋書きは
割と最近に出来たものらしいです。
で、その内容が何と無く自分の中でストンと落ちてこないので
秋月なりに納得出来る筋書きを考えてみる事にしました。
・・・想像以上に大変な作業になってびっくりです。
しかも、当初は友人の甥っ子(小学一年生)に聞かせるつもりだったのに
蓋を開けたら大変な事になっています。まぁいいけど。

では、秋月版桃太郎。やっと後編の公開です。


【後編 -目次-】
 六  不吉の前兆
 七  鬼の出没
 八  上陸
 九  首領
 十  本当の鬼
 十一 帰郷


通常の『桃太郎』とは大幅に内容が異なりますので、
前編を未読の方はこちらを先にお読み下さい。
これが私の桃太郎。前編


それでは、続きは記事の折り返しから。


 六 不吉の前兆

巨大な体躯の男が二人と黒い眼帯をした少女、
それに甲高い声の赤ら顔の男、と桃太郎一向はとにかく目立つ。
また猿が決して悪事の証拠を残さないようにしていたとはいえ、
やはり村の近くでは桃太郎たちはよく知られた存在だ。
そんな桃太郎たちなので寄り道もせずにまっすぐに鬼ヶ島近くの町を目指した。
健脚な桃太郎たちが半月も歩くとやっと目的の町についた。
そこは「鬼ヶ島に近い」町だった。規模もそれなりに大きい。
もっともそこから更に半日歩いた小さな漁村が、より鬼ヶ島には近いのだが、
まずは情報集めと資金調達、鬼の規模によっては人材の確保が必要だった。

そもそも約束がなければ鬼退治が徒労に終わる可能性もある。
鬼の出現によって町民の不安と不満が高まっていれば、
鬼退治を買って出る事で町の代表者(武家)から褒賞を引き出す事が可能だと、
また漁に影響が出ているならば鬼退治のあかつきには
漁の組合から金をせしめる事が出来る、と桃太郎は考えていた。

はたして状況は桃太郎たちが考えるよりも遥かに深刻なものだった。
その理由は、ここ数年で鬼ヶ島に日本人の犯罪者たちが集まりだした事、
そして「鬼の出没の急増」が原因だった。

まず鬼ヶ島について集めた情報だが、
鬼ヶ島に鬼(異国の人間)が住み始めたのは実に10年以上前からだという。
鬼ヶ島は自給自足の可能な島だが、島の周りの潮流は激しく、
暗礁のせいで島へ入るには大きく島の反対側へ回り込む必要があった。
その上、急峻な断崖に囲まれた自然の要害だった為、地元民は誰も近寄らなかった。
皮肉にもだからこそ、そこに逃げ込む人間が生まれた訳だが
お互いに交流がない事が危ういながらもギリギリの均衡を保っていた。
ところがその「互いに絶対不可侵」の不文律が破られ始めているという。

この数ヶ月、鬼ヶ島にもっとも近い村で、またこの町で
鬼や、鬼ヶ島に逃げ込んだ筈の犯罪者たちが何度も目撃されている。
しかもその時の様子が文字通り鬼気迫る物があり、ただ事ではないという。
さりとて、犠牲を払う覚悟をしてまで鬼ヶ島に偵察に行く人間も
ましてや鬼退治に行こうという人間もいないのだ。
結局、誰もが鬼を恐れて肝心な情報は何も集まらなかった。


 七 鬼の出没

鬼退治を条件に報奨金の話を持ちかけるにしても、後から
人がいる、物がいる、時間がかかるでは交渉は有利には進められない。
まずは誰よりも情報を握っている事が桃太郎たちには必要だった。
鬼退治に報奨金が出る、という情報は掴んでいたので
確約を取る前に桃太郎は更に鬼退治を確実に進める為の行動に出た。

まず「鬼ヶ島にもっとも近い漁村」に向かった。
村人たちの恐怖と怒りは、町の人間以上のものがあった。
しかし鬼退治を買って出た桃太郎に対して村人は非協力的だった。
それは鬼の報復を恐れての事だった。
鬼は憎い。鬼には消えて欲しい。だが行動は起こしたくない。
そんな村人への桃太郎の恫喝は予定調和でしかない。
鬼という目に見えない恐怖に対して、目に見える暴力をチラつかせる。
村長のような年老いた狸の懐柔が難しくとも
血気盛んな若者を焚きつけて全体を戦う流れに誘導する。
また鬼退治の前に周到な準備を行う事を約束した。
それは大胆にも鬼ヶ島への潜入だった。
最終的に桃太郎たちは村の離れでの寝床の確保と、
小船の借り受けの約束をとりつけた。

翌日、桃太郎たちはすぐに行動に移る。
桃太郎は猿、犬、雉の三人の家来だけを供につけて鬼ヶ島に乗り込む事にした。
桃太郎には勝算があった。
役人には絶対に出来ない、いや自分たちにしか出来ない情報収集。
それは犯罪者として鬼ヶ島に乗り込む事だ。
鬼ヶ島の鬼に溶け込み、戦力を探り、鬼ヶ島の首領を探り出す。
特に最近の鬼には今までに無い動きがあるという。
これは付け入る隙があるかもしれない、という事だ。

山村育ちの桃太郎たちだが、海へ出て「悪さ」をする事もある。
小船の扱いにも慣れたものだった。
半刻(一時間)も経たずして桃太郎たちは鬼ヶ島の入り口へ上陸した。
鬼ヶ島の実質上の入り口は一つしかない。
当然見張りが居た。
槍や斧で武装した数人の見張りが桃太郎達にゆっくりと近づいてきた。


 八 上陸

警戒した上で距離を置いての確認が始まる。
いきなりの戦闘にはならない。
鬼ヶ島に近づく人間は異国の人間か犯罪者ばかりだ。
役人や武士、一般人が訪れた事は一度も無い。
また海流の関係で「間違って」迷い込むような場所ではないのだ。
風体・雰囲気から桃太郎たちが堅気でないのは見張りにもすぐ伝わる。
桃太郎たちは怪しまれないはずだ。
だが、小船を降りた桃太郎たちと見張りとの距離が近づくと
桃太郎を見た見張りたちに僅かに動揺が走った。
戦闘になるか?余裕の表情は崩さず桃太郎は冷静に周りを見回す。
見張りの数は3人。
他に気配は感じない。
騒ぐようなら斬り伏せるつもりで桃太郎は間合いを詰めた。
が、見張りの真ん中の男が右手を前に突き出し桃太郎達を止める。
戦う意思は無い。鬼ヶ島の首領の下へ案内する、という。
桃太郎たちに異論は無い。従う事にした。
猿は武器を預かる、と要求されるかと思ったが何故かそれは無かった。
かくして桃太郎たちは鬼ヶ島の中心部、山の中腹にある首領の家へと案内される。

四半刻(30分)ほど歩く道すがら桃太郎たちは誰にも会わない。
不審に思った猿が問いただすと、見張りは驚くべき答えを返す。
鬼ヶ島の鬼と呼ばれる住人は、一時は100人は居たのが
今ではその半分までに数を減らしたと言う。
その理由は、ここ数ヶ月、病で死ぬ者が相次いでいる為だという。
異国の者にとっては慣れない土地と食事、日本人の犯罪者にとっては
衣食住の安心を得たとは言え、町に寄れない為、どうしても栄養が偏る。
そして何より薬を得る事が出来ないのだ。
鬼ヶ島に群生する草花では、今蔓延している病気の薬にはならないという。
これは鬼達が町に出没している時期と重なる。薬を求めていたのだ。

それが本当なら、桃太郎たちにはとんでもない好機だ。

だが武器も奪わず、初対面の桃太郎たちに何故ここまで話すのか?
当然の疑問は、猿ではなく桃太郎があっさりと口にした。
医者と薬を手配して欲しいからだ、と見張りは答える。
奇異な容貌から住む場所を失った(と桃太郎は説明した)
桃太郎たちを受け入れる条件はそれだという。
そうこうしている内にわらぶき屋根の家へと着いた。
家の天井が随分と高い。首領は異国の人間だという。
気配を察して、家から二人の男が出てきた。片方は日焼けした異国の若者だ。
海辺から同行していた見張りは、後は任せたと言って元来た道を戻って行った。

奥の部屋に案内された桃太郎たちは、そこで鬼の首領と対面した。
首領の顔を見て、雉と猿は小さく息を飲んだ。

そこには桃太郎そっくりの男が居た。


 九 首領

首領は、年の頃は50過ぎで今年15になる桃太郎とは顔の造りが違う。
だが精悍な顔付きや、静かだが内に獰猛さを秘めた眼差しが酷似している。
桃太郎には母に日本人の血が入っているから見た目でまったく同じではない。
だが身に纏う雰囲気が同じなのだ。猿、雉、遅れて犬は全てを理解した。
10年以上前に鬼ヶ島に住み始めた鬼。
桃太郎の母が父親を明かせなかった理由。
桃太郎の膂力が人並み外れて強かった理由。
異国人と犯罪者を纏め上げる求心力を持った存在。
その答えが目の前にあった。
見張りが桃太郎を見て驚いたのはこれだったのだ。
そしてその後すんなり案内されたのは首領から
まだ見ぬ我が子の存在を聞かされていたからなのかもしれない。

だが桃太郎は?
父を知らず、母を知らず、母の死に目にさえ会えなかった桃太郎の心中は?
殺気でも怒気でもない、異様な緊張が場を支配する。
雉が桃太郎の服の袖を無言で強く握る。
首領と二人で話がしたい。そう静かに桃太郎は告げた。
異を唱えようとする自分の護衛二人に、首領は従え、と目線で合図した。

家の外に出た首領の護衛と、猿、犬、雉たちは言葉を交わせないでいた。
家の中からは大きな物音はしない。
長い緊張を破って、一人桃太郎が家から出てきた。
首領の護衛二人に、薬と医者は何とか手配する、と告げた。
それから鬼ヶ島の鬼を救う為に必要な段取りがある、とも告げた。
数日の間に全ては終わる。詳しくは後で、とも言った。
護衛二人は顔を見合わせると、思い出したように家の中へと駆け込んだ。

さぁこれから忙しくなる、と桃太郎は家来を抱き寄せて言った。
・・・鬼退治の始まりだ。

小船で漁村に戻ると桃太郎は村人に鬼退治の「計画」を話した。
更に半日かけて町へも戻り、武家の人間へ鬼退治の褒章の約束を取り付けた。
この時に桃太郎はある小細工をしていた。
理由を聞いた犬達は驚いたが、言われてみればなるほど、と納得した。
桃太郎の腹は決まった。

この日より、桃太郎たちは数日の間何度も鬼ヶ島に渡っていた。
時には町医者とおぼしき男を連れての事もある。

桃太郎の計画は全て順調に進んだ。
桃太郎が鬼ヶ島を訪れてちょうど7日目を数える頃。
首領の部屋から桃太郎の咆哮が聞こえた。

桃太郎にも予想外のとんでもない事態が起こった。
だが動き出した歯車は止まらない。そして計画は実行に移される。

鬼ヶ島は真っ赤な炎に包まれた。


 十 本当の鬼

桃太郎一向が鬼退治を成功させたという報は、瞬く間に武家の男の耳に入った。
鬼ヶ島の鬼どもめ、大人しくしていれば良いものを。
最近は町にまで出没を初め、住民がうるさかったのだ。
鬼ヶ島は攻めて支配下におくには距離が遠く利点が少なかった。
男にとって正に桃太郎たちの行動は渡りに船だった。
しかし聞けば鬼退治を結局3人でやり遂げたらしいと部下は言う。
余程の策士、つわものなのか、鬼の噂に尾ひれが付き過ぎていたのか。
まぁいい。先ずは今、目の前にいる桃太郎たちに話を聞けば済む事だ。

桃太郎と名乗る大柄な男は、手土産の首を差し出す。
それはまさしく鬼ヶ島を統べる男の首だった。
郷里(くに)の方言を無理に抑えて喋っている為だろうか、
桃太郎はよく言葉につまり、どもりながら喋っていた。
鬼どもを殲滅した勇者、異形の大男であるのに
その姿はどこか怯える子犬のようでもあった。
それでも官吏達が桃太郎に何も言えず、望みの褒美を約束したのは、
桃太郎の目にしっかりとした、力強い光が灯っていたからかもしれない。

鬼の残党が居れば町に報復に来るかもしれないという理由で、
武家の男はすぐには鬼ヶ島には検分には行かなかった。
勿論、報復に来るよりも逃げる可能性のほうが高かったが
そんな事は知ったことではない。
捜索をするには人を広範囲に割かなければならず、
自然、町の守りが手薄になる。捜索隊が返り討ちにあう可能性もある。
そんな危険を冒す必要も責任も負う気は無かった。
しかし10日以上経っても何事も無いのが判るとやっと重い腰を上げた。
家来全員を引き連れて鬼ヶ島に渡ったのだ。

鬼ヶ島の惨状は酷い物だった。
家という家が焼き払われ、腐臭が立ち込めていた。
2、30近い鬼どもの焼死体が見つかった。
正確には白骨だ。探せばもっと見つかるだろう。
これを桃太郎たち3人だけで行ったというのか。

何でも、鬼ヶ島に逃げ込んだ犯罪者を装い、信用を得て、
数日かけて焼き討ちの為の準備を進めていたと言う。
また鬼どもの幾人かがかかっていた病を治すと称して
医者を連れて行き、襲撃の夜に眠るように薬を打ったという。
それ以外の者には酒をふるまった。
軍資金は、鬼ヶ島に近い村の人間からかき集めたらしい。

まさしく鬼の所業だ。それも恐ろしく狡猾な。

そんな鬼達を飼えば役に立つのでは?と家来の進言もあった。
鹿馬鹿しい。
戦いなど適うなら一生避けたいのだ。火種を手元においても使わずに腐るだけだ。
聞けば褒賞を得て帰郷したいという。ならばそれで良いだろう。

武家の男は褒章を十分に与え桃太郎達を自由にした。


 十 帰郷

かくして、犬、猿、雉は帰路につく事になる。
桃太郎。桃太郎はもう、居ない。
桃太郎・・・武家の男にそう名乗っていた犬はため息を漏らす。
武家の男は流石に鬼の顔を知っている可能性がある。
鬼の首領と同じ顔を持つ桃太郎が合う訳にはいかなかった。
そう桃太郎に言われて納得していた。
桃太郎はどこまで先の事を見据えていたのだろうか。
桃太郎は死んだ。
そうおじいさん達に伝えるのは気が重かった。
だがこれはケジメだ。
犬は最後の仕事を果たす決意を固めて故郷の村へと戻った。

鬼退治の報を携えて村に戻った犬達は、予想外の歓待を受けた。
それは犬の人生で初めての事だった。
だが手放しでは喜べない。
村長の娘は連れ帰ることが出来なかった。
もともと病弱だった村長の娘は、鬼ヶ島で
駆け落ちした男に看取られて息を引き取った。
猿が形見の櫛を村長に渡してからそう告げると、
村長は食ってかかるどころか、すまない、すまない、
と繰り返して家に引きこもってしまった。もはや別人だった。

犬たちが桃太郎のおじいさん、おばあさんの家へ向かったのは
村人主催の宴会が終わった翌朝の事だった。
犬たちは桃太郎の死をおじいさん達に告げた。

犬には桃太郎を失い途方に暮れるおじいさん達にかける言葉がなかった。
長い沈黙を破っておじいさんが口を開いた。

「お婆さんや、泣くのはもうお止めなさい。」
「そうですね。おじいさん。気を取り直して次の桃を買いに行きましょう。」

おしまい。


◆秋月らせん版、桃太郎、以上にて終了です。
時代考証とか諸々については、ごめなさいごめんなさいの方向で。
内容はこれでもかなり削ったので、何とか中編、後編に分けなくて済みました。
恩賞がどこから出ているのか、明らかなファンタジー要素を削ったらどうなるか、
他にも色んなテーマを詰め込んで書けました。最後のオチも書けましたし。
秋月としては満足です。

ただこれだと色々と削りすぎたせいで、肝心なところがあやふやな気もします。
よく考えたら『完全な桃太郎視点の章』が一つもないですね。
なので蛇足ですが、後日【最終章 桃太郎】を公開します。
今しばらくお付き合い下さい。

今度は流石に一ヶ月も明けません。たぶん。

・・・結局、一ヶ月空けました。。。
これが私の桃太郎。最終章です。



コメントの閲覧 コメント

うを!このような展開になるとは
思ってもいませんでした。

物語の構成には、
読み手にある程度ストーリーを予測させながら
話を展開していく王道コースと(ラブコメね)
全く予想をさせずに最後にびっくりさせる
推理考察コース(推理・サスペンスね)があって、
今回私は王道コースを予想していたので、
(おとぎ話という枠にとらわれすぎたかも)
かなり結末には驚きました。

書き手としては『してやったり』かな。
かなり勉強になりました。

では、最終章を待っています。

1661:投稿日時:2008年06月29日 17:52 投稿者:ううろん [RES]

こんばんは、ううろんさん。
コメントありがとうございます。
なるほど、王道コースと推理考察コースですか。
全然意識せずに書いていました。

不思議なもので、前編を公開するまでは後編のプロットはあれど、
ちっとも書き進まなかったのですが、公開した後は
流石に中途半端なままでは駄目だなぁと思い
漫画喫茶の8時間コースで何とか書くことが出来ました。

最終章は補足というか、蛇足になる可能性が大なのですが
楽しんでいただけるように頑張りたいと思っています。

1662:投稿日時:2008年06月30日 01:04 投稿者:秋月らせん [RES]

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