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2008/05/27(火)

これが私の桃太郎。前編

以前友人と、
鬼の宝を奪って裕福になった桃太郎はありえない
といった趣旨の話をしていました。

勿論、鬼を倒す事で今後の被害がなくなるのは判ります。
それと昔話は世相を反映してもともと残酷な部分があったり、
子供の夜更かしを戒めたり、若い娘の軽率な行動を諌めたりと、
訓辞的な側面があるのも判ります。
なのでそれらへのツッコミは空気読まずというか無粋だし、
しょーもない事ではあるのですが、
なら自分で納得出来る話を書いてみようと思いました。(ココ重要。)

勿論、昔の文豪が簡潔で、でも斬新な内容を既に書かれていたり、
最近ならジャンプでたった1話で「やられた!」というお話が
載っていたりするので今更な感ありありですが、まぁ人は人という事で公開します。

後半のプロットは出来ていますが、
仕上がるのがいつになるか判らないので
とりあえず前半部分だけ載せます。
怒りを感じる方は、「くだらねー」と鼻で笑って溜飲を下げて下さい。


【前編 -目次-】
 一 桃
 二 猿、犬、雉
 三 鬼退治の依頼
 四 鬼が島
 五 出立前夜


続きは記事の折り返しから。


 一 桃

むかし、むかし、それがいつだったか誰も思い出せないほどむかしのはなし。
ある山奥の村におじいさんとおばあさんが住んでいた。
おじいさん、おばあさんには子供が居なかった。戦争と疫病が二人から子供を奪っていった。
そしてとりわけ村でも長寿の二人は生活に困っていた。
蓄えも無ければ、子供も居ない、また年老いた身体に力仕事は過酷だった。
おじいさんが山へ芝刈り・・・そんな力仕事が出来たのはもう10年も前の話である。
そこで二人はよく話し合い、桃を買う事にした。
ここで言う桃とは食用の桃の事ではなく、この村に伝わる隠語の事だった。
父親を明かせない訳ありの女性から子供を身請けする事を、桃を買う、と言っていたのだ。
若い母親は子供の出産を村人に黙認してもらい、(本来は到底認められない。)
おじいさん、おばあさんは将来の労働力として子供を譲り受けたのだ。

おじいさん、おばあさんの買い物は正解だった。
桃太郎と名づけられた赤子はすくすくと育った。
生まれが人と違う桃太郎は幼い頃いじめられていたが、
自らに人並みはずれた腕力がある事を知ると、暴力で相手を従える事を覚えていった。
そうして齢15を数える頃には、村人の誰からも恐れられる存在となっていた。
遊んでばかりの桃太郎だったが、出自の明かせない汚い金を稼いでは
おじいさん、おばあさんには楽な暮らしをさせていたので二人は桃太郎を可愛がった。
また桃太郎も二人を愛した。
桃太郎の母は彼が5つの時に流行り病で他界しており(そもそも会う事は許されなかったが)
彼は母の顔を思い出す事すら出来なかった。
皮肉にもそれが桃太郎の心をおじいさん、おばあさんに繋ぎとめる事となった。
そして彼の心はゆっくりと、だが確実に偏り歪んでいった。
おじいさん、おばあさん以外には嫌われていた桃太郎だが
彼には3人の人間の家来がいた。
彼らを桃太郎は猿、犬、雉(キジ)と呼んだ。


 二 猿、犬、雉

猿はもちろん猿、という名前ではないのだが、赤ら顔と大きい耳のせいで
村の誰からもそう呼ばれていた。またその風貌と高い声で早口に喋りすぎるのが
村人にとても嫌われていた。
猿はずる賢い印象を人に与えていたのだが、事実彼は臆病だが野心家だった。
だが桃太郎は猿をそばに置いた。猿は傍から見れば誰もが顔をしかめるほど
露骨に桃太郎に媚ていたのだが、桃太郎はそれを特に気に留めていなかった。
桃太郎にとっての猿は悪巧みを思いつく仲間であり、優秀な子分だった。
桃太郎は確かに傲慢な性格だが、決して猿を見た目や噂では差別しなかった。

犬は名前に犬という字が含まれていたのがあだ名の由来となった。
犬は猿以上に臆病だった。だが猿のように矢継ぎ早に喋る事は出来なかった。
いやそれどころか、人と向き合って喋ることを苦手としていた。
また犬は桃太郎より巨大な体躯の持ち主だった。膂力も桃太郎以上のものを持っていた。
だが人と争うのが苦手な犬は力を持て余していた。
気の弱い犬を誰もが(猿も)馬鹿にしていたが、桃太郎はそもそも自分が世の中で
一番偉いと考えていたので、犬を他の人間と区別して馬鹿にする事はなかった。
犬にとってそれは初めての事で、桃太郎に深い恩義を感じていた。
犬は自らの腕力を頼みに桃太郎に悪事の片棒を担がされても逆らえなかった。

最後に雉。
桃太郎の家来の中で雉だけは女性だった。
彼女の父は、雉を捕まえる猟師で村一番の腕前だった。
その事を聞いた桃太郎がいつもの勢いだけで彼女につけたあだ名が雉だった。
捕まえて食べる対象があだ名の由来とは無茶苦茶だがこれが
良くも悪くも桃太郎という人間だった。
雉は幼い頃に病気で目を患っていた。一時は高熱が続き命さえ失いかけたが
父の献身的な看病で一命を取り留めた。だが左目の回りがひどく腫上がり、
とうとうそれは治らなかった。
雉は腫れを隠すため、黒い眼帯を左目にしているのだが
これもまた村の子供達の格好の餌食となってしまった。
眼帯めがけて石を投げつけられていた雉を助けたのが桃太郎だった。
もっとも桃太郎は、雉を苛める子供達のリーダーに喧嘩を売る理由が
欲しかっただけなのだが、これをきっかけに雉は桃太郎に付き従うようになった。

桃太郎が村での悪さにも飽きてきた頃、
彼は村長から鬼討伐をしてくれないか、と突然、話を持ちかけられた。


 三 鬼退治の依頼

村長が言うに、桃太郎はこんな小さな村で納まる器ではない、
鬼討伐で名を上げれば都での仕官の道も夢ではない、
おじいさん、おばあさんにももっと楽な暮らしをさせる事が出来るだろう、
という事だった。
これは厄介者の桃太郎達を追い出そうとしているのは見え見えだった。
だが桃太郎が激昂するよりも早く猿が場をとりなした。
桃太郎がおじいさん、おばあさんを置いて長い旅に出るというのは
簡単に決められる事ではない。三日考える時間が欲しい、と。
ここでしつこく食い下がれば桃太郎がどういう態度に出るか
よく知っていた村長も猿の提案を飲んだ。

村長の屋敷を離れ、開口一番、猿は桃太郎に真意を告げた。
村長の態度は怪しい。自分達を村から追い出そうとする以外にも何か裏がある筈だ。
自分はそれを三日で探りだす、と言った。
意外にも桃太郎はすんなりと猿の提案を聞き入れた。
桃太郎はずっと上の空だった。

三日と待たずして猿は情報を仕入れてきた。
村長には彼に似合わぬ美しい娘がいる事で有名だったのだが、
その娘がどうやら漂着者の異国人と駆け落ちしたらしい。
そして二人は異国人達がより集まった島・・・鬼が島に逃げ込んだという。
そんな情報ならすぐにでも広まって耳に入りそうなものだったが、
娘は身体が弱く、めったに村長の屋敷から出る事がなかった上に
近々武家の人間との結納が決まっていた。
そこで村長は戒厳令をしき、ついで桃太郎を利用しようとしていたらしい。

情報を揃えると早速桃太郎たちは村長の屋敷を訪れた。
猿が村長の弱みをつき、不義理を責め、親心につけいった。
桃太郎は村長の態度に怒り、恫喝していた。
冷静な人間が傍から見れば、欲深く煮ても焼いても食べれそうに無い村長が、
15歳の桃太郎達に責められている様は喜劇にしか見えなかった。
だが村長が呑まれ臆するのも無理からぬ話ではあった。
娘を失ってからの村長は心身ともに疲れきっていたし、
心の底を覗いて責めてくる猿の話術と、
何より桃太郎が纏う有無を言わせぬ暴力の雰囲気が
普段の村長の高慢さとしたたかさを見る影も無く吹き飛ばしていた。
結局、桃太郎は命がけで鬼討伐に行くかわりに
鬼討伐に必要な身支度・・・道中の路銀から羽織、太刀、鎧を
用立てる事を村長に約束させたのだった。


 四 鬼が島

さてここで少し、鬼が島について述べよう。
鬼が島・・・それは通称なのだが・・・陸から適度に離れた孤島。
初めは日本に漂着した異国の人間が流れ着いた島だった。
それが噂を聞きつけて一人また一人と集まっていったという。
日本人とは大きく異なる容姿、言葉、体躯に人々は恐れを抱いた。
鬼が島は自給自足の可能な、魚にも野菜にも恵まれた孤島だったので
住みついた異国人たちは、人々に恐れられ交流を持てない状況でも
何とか慎ましやかに暮らしていた。

そんな鬼が島が変わり始めたのは、日本人の犯罪者達が
鬼が島に逃げ込むようになってからだった。
彼らの中には殺人などを経験した者はほとんどおらず、
空腹から窃盗を繰り返した者、濡れ衣をきせられた者が多かった。
彼らは異国人と手を取り合って何とか鬼が島での暮らしをおくっていた。
だが彼らの存在は、鬼が島の人間を疎ましく思う日本人たちに
「鬼が島の鬼討伐」という理由を与えるに十分だったのだ。

桃太郎のいる村の、村長の娘を連れ去った男は
異国の商業船の若い乗組員だった。だが彼の乗る船は不幸にも難破した。
彼が幸運だったのは、仲間の船乗りから鬼が島の存在を聞いていた事だった。
また商業船に乗る宣教師から日本語を少なからず教わっていた事も幸いした。
そんな彼は、記憶を頼りに鬼が島を目指す途中、
病気の療養の為、山奥の温泉に湯治に来ていた村長の娘と出会う。
一目ぼれした男は求婚するが、娘は既に婚約しているという。
しかしそれが娘の望まぬ政略結婚だと聞くと、
半ば強引に娘を連れ去る事を決意した。

一度も父に逆らった事の無かった娘だが、父以上に年の離れた
名ばかりの武士との結婚よりも、異国のエネルギッシュな若者との
駆け落ちを選んだ。
そうして男と娘は今、鬼が島にいる。


 五 出立前夜

話を桃太郎達に戻そう。
身支度を整えた桃太郎一行は、出立の前日、
それぞれの家族とのしばしの、もしくは永遠の、別れを済ませていた。

犬。
彼には身体は大きくとも気の弱い彼をいつまでも心配する家族が居た。
犬は鬼退治という正義を行えば、きっと胸を張れる、
自分に自信が持てるそう信じていた。
犬を引き止めていた母は、犬の決意を感じた父の「行かせてやれ」の一言を聞くと
意を決して奥の部屋から小箱を引き出してきた。
厳重に封をされた箱の中には、嫁入り道具の小刀が納められていた。
それは婚姻後に家に近づく魔を祓うという意味が込められていた。
母は切り出し小刀を犬に授けると無事の帰還を約束させた。
口ベタな犬は何度も何度も首を縦に振った。

雉。
彼女は目を患う前に母を病で失っていたから、家事は彼女が行っていた。
更には老いて引き金をろくに引けなくなった父を一人残すのには抵抗があったが、
頑固な父が、娘に自分を負担だと感じられるのが嫌なのもよく判っていた。
雉が選んだのは全てを正直に話す事だった。
鬼退治の事。桃太郎と離れたくない事。
父は黙って、よく手入れされた猟銃を雉に手渡した。
人を銃で撃つなど言語道断だったが何せ相手は鬼だ。
愛しい娘の命とは比べるべくも無かった。

猿。
猿は両親に何も話さなかった。
7人いる兄弟達にも何も話さなかった。
だが夜、一番下の妹が猿の異変に気付いて話しかけてきた。
家族にすら疎まれる猿と、いつも用事を押し付けられる一番下の妹は仲が良かった。
妹は猿が昔作り方を教えた猪殺しの為の毒薬を渡してくれた。
猿はどんな手段を使ってでも必ず帰って来ると約束した。

桃太郎。
桃太郎は鬼退治の旅が、別段特別な物だとは思っていなかった。
いつもよりは長く家を空ける事だけをおじいさん、おばあさんに話した。
二人は今まで桃太郎が家にいれてくれた蓄えがあったから
何とか食べていけるだろうと言った。
二人は黍団子を作って桃太郎に持たせた。

それぞれの想いを胸に秘め、桃太郎たちは鬼退治の旅に出るのだった。


 これが私の桃太郎。後編につづく。



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コメントの閲覧 コメント

うん。すばらしい。
一気に読ませていただきました。
時代背景といい、
各人の心理描写が、
とてもわかりやすいです。
物書きの基本の伝えると
いうことを秋月さんは
押さえておられますね。
後編を楽しみにしています!

コメント受付日時:2008年05月27日 07:59 / 投稿者:ううろん

 えーと、いきなりこんなこと言うのはアレなんですケド、正直「桃太郎」である意味がわからない、という印象が強いというかなんというかごにょごにょ。なまじっか「桃太郎」というベースが残っているぶんそのイメージとの乖離に違和感を禁じ得ないというか、いっそのこと別の作品にしちゃえよとか思ってしまいました。
 ともあれ、独立した「善悪の逆転と葛藤の物語」と考えれば魅力的なお話だし個人的にはそういうのは結構好きなんで内容については読み応えありました。雉萌えと見せかけて犬萌えですよね、わかります。
 自分は基本エンターテイメントにはハッピーエンドを求めちゃうので、「結局誰も救われませんでした」なんてことにならないことを願いつつ、続きを楽しみにしたいと思いますー。
 ではでは無粋なツッコミ失礼いたしましたー。

コメント受付日時:2008年05月27日 14:19 / 投稿者:むにゅ

たのしく読ませていただきました。
今、一般に知られている「桃太郎」は、
わりかし最近出来たものなんですよね。
異本も多いですし。

(Wikipediaにもいろいろ書いてありました)

秋月さん版の桃太郎、
ちゃんと登場人物たちに血が通っていて、
あたたかさを感じます。

コメント受付日時:2008年05月27日 23:07 / 投稿者:ニコ

こんばんは、ううろろんさん。

ううろんさんがいかに大変かが判りました。
文章を書くのが難しいのは勿論のこと、
選んだテーマによっては考え込んでしまって
筆が1ミリも進みません。

こう、同じ悩むでも絵を描くとかだったら、
目的にたどり着く為の方法とか逃げ方とかが
判る部分は色々あるんですけど、
文章を書く経験値は無いので難しいです。

後半は・・・とにかくプロットは詰めてみます。

コメント受付日時:2008年05月29日 01:40 / 投稿者:秋月らせん

こんばんは、むにゅさん。

秋月の『桃太郎』のイメージは「猿・犬・雉が従者」
「鬼ヶ島で鬼退治」「財宝ゲット・ウマー」の3点しかありません。
で特に3点目が納得いかなかったのと、細部もよく考えるとアレ?
って部分が結構ありました。
でそういう細かい部分(それを一々解説するのは無粋なので割愛してます。)
を秋月なりに修正・拡大解釈したのがこのお話です。

>雉萌えと見せかけて犬萌えですよね、わかります。
行間読む能力が高過ぎる!何故この駄文からそこまで読み取れるんですか!?

おかげさまで(秋月版)桃太郎の心情で、1つだけどうしても判らなかった事が
なんか急に理解できました。その代わり後半プロットのハードル上がりましたが。
珠玉のコメントありがとうございました。

コメント受付日時:2008年05月29日 02:01 / 投稿者:秋月らせん

こんばんは、ニコさん。

>今、一般に知られている「桃太郎」は、
>わりかし最近出来たものなんですよね。
みたいですね。

秋月が一番最初に読んだ異本は、
小学生の時に読んだ落語の桃太郎です。
たぶんそこがこの話を書く事になった原点だと思います。

血が通っている、とは最大の賛辞ですね。ありがとうございます!

コメント受付日時:2008年05月29日 02:10 / 投稿者:秋月らせん

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